ダーツにおける4スタンス理論について
先日、レッシュ理論(4スタンス理論)プレイヤー級トレーナーの資格を取得して、改めてダーツにおける4スタンス理論について考えたので、整理のために残しておく。
4スタンス理論は手段でしかない
一番言いたいことはこれ。
4スタンス理論はレッシュ理論でいう、「安定性」「確実性」を実現するためのただの手段でしかない。
もう少し詳しく説明すると、まずレッシュ理論は全員に共通した決まりごとである「全体定理」と、個々の特性に委ねられる「個体定理」に分けられる。
「全体定理」「個体定理」には以下のようなキーワードがあり、それぞれが対となる。
レッシュ理論において、「全体定理」は全員が徹底するべき随意動作であり、「個体定理」は全体定理を徹底した中で身体の動きに現れる不随意動作である。
言い換えると、5ポイント理論に従って軸(=JIKU)をしっかり作って立って(正しい立位姿勢で)身体を動かした際に不随意に現れる個々の特性が4スタンス理論であるということ。
これをダーツにおける動作に落とし込むと、5ポイント理論に従って土踏まずを踏み、軸を作ってしっかり立った上でセットアップすると、セットアップからフォロースルーまでの身体の動きに4スタンス理論の各特性が自然に現れるということである。
つまり、全体定理に従わずに(正しい立位姿勢をとらずに)4スタンス理論の動きの実践をしたところで、「不随意に(自然に)現れる動作をする」ことが目的になってしまい、本来の「安定して確実にダーツを投げる」という目的と手段が逆行してしまう。
4スタンス理論の○○やったけど全然ダメだったーとか、むしろ悪化したーとかいう人のほとんどは、上記のような目的と手段が逆行してしまっている人だと思う。
例えば B2 タイプの人は動作の初動で上腕・前腕ともに外旋するという4スタンスの特性があるため、フロースルーの手の形がチョップのような形になりやすい。
だからといって、B2 の人が「じゃあ手がチョップになるように意識して投げよう」ってすると、「チョップのように投げる」ことが目的になってしまい、「ダーツをターゲットに入れる」という本来の目的が見失われてしまう。
4スタンスの特性は正しい立位姿勢でダーツを投げた時に勝手に(不随意に)出る動作にすぎないので、4スタンスの特性の通りに投げることを目的としないように注意。
正しい立位姿勢が取れている上で、自分のタイプに合っていない動きをしていないかチェックすることがダーツにおける4スタンス理論の正しい適用の仕方だと思う。
極論を言うと、4スタンス理論の知識は必要なくて、5ポイント理論だけ知っていれば良い。そうすれば余計な手段を気にしなくて済む。
とは言いつつも、人はどうしても上達のための手段を求めてしまうし、そうするのもわかる(自分もそうだし)。
ダーツ雑誌でも4スタンス理論の特集が組まれることがあるけど、限られたページ数だと伝えられることに限度があるし、A1はこう、A2はこう、みたいな方法論がメインになってしまうのはしょうがないのかな。
何が言いたいのかというと、4スタンス理論を気にするのもいいけど、まずは骨格を揃えて軸を作って正しい立位姿勢で立ってダーツを投げようねって話。
あと、4スタンス理論と5ポイント理論をセットで学習することはマスト。
セルフチェックは絶対ダメ。
4スタンス理論を学ぶメリット
これはもう、世の中に蔓延る多種多様なアドバイスの中から自分に合ったものだけ取捨選択できるようになるってことが一番だと思う。
少し前に話題になった、「海外の上手い選手は肘裏が真上を向いているのに手の平が下を向くように投げている」ってやつ、これを4スタンス理論を知らない人が真に受けて実践してしまうと、タイプによってはフォームが壊れ、場合によっては怪我をしてしまう。
上で言ったように不随意動作を随意でやることになるからそもそもやることに意味はないんだけどね。
発信した本人に悪気はないのはわかっているし、4スタンス理論を知らない人が実践してしまうのもしょうがないとは思うが・・・
こういうのを少しでも減らすことが我々レッシュトレーナーの役目だと思っている。
自分のタイプがどのような身体の動きをするのかが分かっていれば、未だに(初見で)肘を固定して投げろなんていう人のアドバイスを聞く必要が無いって判断できるし、逆に言うとこの人のアドバイスは為になるって判断もできる。
(タイプチェックもせずに肘を固定して投げるといいよってアドバイスしてる J プロを Twitter で見かけて悲しい気持ちになった)
4スタンス理論は技術力向上のための理論ではない
4スタンス理論は「安定」
よく勘違いされますが、4スタンス理論を取り入れるだけではダーツは上達しません。
※ 筆者も最初は勘違いしていた
4スタンス理論を含むレッシュ理論が目的としていることは「安定」です。
「安定」した動作をした結果、「安全」で「確実」な動作を実現でき、持っている能力を最大限に発揮させることができます。
決して動作の上達のための理論ではありません。
4スタンス理論を取り入れることによる効果
クリケットの例で説明しましょう。
クリケットの平均スタッツが 3.0 の A さんがいます。
A さんはクリケットのスタッツがなかなか安定せず、1.0 を打ってしまったり、逆に 5.0 を打ったりもします。
5.0 を打てる技術力があるにもかかわらず、ダーツが安定しないため平均スタッツが 3.0 と低くなってしまっているのです。
この A さんが4スタンス理論を取り入れると、自分の持っている能力を最大限に発揮できるようになり、
5.0 やそれに近いスタッツが安定して出せるようになります。
平均スタッツが 0.5~1.0 は上昇し、レーティングも 1~2 は確実に上がります。
これが 4スタンス理論を取り入れることによる効果です。
しかし、4スタンス理論を取り入れたからといって、A さんが急にスタッツ 7.0 や 8.0 を打てるようにはなりません。
自分の技術力の上限値が上がる、爆発力が出るわけではなく、自分の上限に近い技術力を発揮できるようになるだけなのです。
これから 4スタンス理論を取り入れる人や既に取り入れている人は、ここを勘違いしないでほしいです。
※ 安定していいダーツが投げられるようになることも上達といえば上達ですが、ここでは技術力(爆発力)のことを指します
モノを投げる技術力をつけよう
4スタンス理論を取り入れてすぐは目に見えてスタッツが上がるので自分は上達していると感じがちですが、自分の技術力の最大値は上がっていません。
少し経つと頭打ちが来ます。
逆に言うと、ダーツが安定してきたということです。
ここまで来たら、4スタンス理論を追うのではなく、モノを投げるという技術力を向上させましょう。
(過去の自分に向けたお話だったりします)
肩の力みを抜く方法
肩に力が入ってしまう、どうしても肩が力んでしまう、と悩んでいる人は少なくないだろう。
とりわけ、A タイプの人は可動域である肩に力が入っていると肩を柔軟に使うことができず、安定性が落ちてしまう(もちろん B タイプの人にも言えることである)ので、肩の力みは抜くに越したことはない。
肩の力みは筆者も悩みだった。
というか、力んでいるのが当然すぎてそれが自然な姿だと思っていて、悪い点と感じておらず、悩みとすら認識していなかった。
実際に肩の力みを感じたのは、初めて DPL に行ったときだった。
スロー動画をみて開口一番で「肩に力が入ってますね、投げ辛く感じたり、投げ続けていると肩が疲れたりしないですか?」と言われた。
ずっとその状態で投げていた筆者としては全く力んでいるとは感じてなくて、学生の頃なんて6時間とか余裕で投げ続けられていたので「???」って感じだった。
筆者としては自然に投げているつもりだったので、若干の疑問を持ちながらもレクチャーの中で肩に力が入らないようにセットアップを作る方法を実践したのだが、それはもう青天の霹靂だった。
教わった通りにセットアップすると、まず全然窮屈にならないし、セットアップの姿勢を継続できる。
そして、めっちゃ腕が出る。腕がちぎれるんじゃないかってぐらい。
筆者はかつて、セットアップの姿勢を長い時間継続することが難しかった。
セットアップの姿勢を続けていると、肩が疲れてきてダーツを投げられるような状態ではなくなっていたのだが、今思えば肩に力が入っているのでそれは当然だとわかる。
それはもう自分の中で大きな改善点であることが明らかになったので、レクチャーを受けた日から、いかに肩の力みをとるか、力まずに投げられるかを練習に取り入れるようになった。
↓当時のツイート
投げリザ
— チェケラファイターズ(木) (@ice_scan_d) May 3, 2022
昨日の疲れのせいか、DPL で言われた肩に力が入ってるのをすごく感じた日だった…
今のセットアップだと絶対に肩に力が入るから肩甲骨の可動域を広げるトレーニングをするか、肩に力が入らないセットアップに変えないといけないのか、どうするか…
#ダーツ
#ダーツ好きと繋がりたい pic.twitter.com/mTWfdyw9Ya
5ポイント理論の出番
ここで本題。
どうやって肩の力を抜くか。
上で言ったように、DPL で教わった方法でも肩の力みは抜けるが、他の箇所の力みは抜けないし、それをやらないと(意識しないと)再発するため、対処療法に過ぎない。
じゃあどうするか。
結論から言うと、肩の力みを抜く方法は「骨格で立つ」ということだけ。
これだけで、肩の力みだけでなく全身の力みが抜ける。
要は、5ポイント理論に従ってしっかり軸を作って正しい立位姿勢を作ると、自然に力が抜けるということである。
この話題でブログを書こうと思ったきっかけのツイートがある。
【整体のはなし】
— ぐるぐる🎯整体師 (@guru_Darts) January 10, 2023
力の抜き方知っていますか?
っと言っても私もまだまだですが、力を抜くって難しいですよね。
では、力が入ってしまうのはなぜでしょう?
それは、今の姿勢を保つために一杯いっぱいになってしまうからです。
姿勢をしっかりつくり、骨格で重力を受けることで自然と抜けてきます。
このツイートは4スタンス理論(5ポイント理論)の話は出てこないけれども、言っていることはまさに5ポイント理論のことだ。
土踏まずを踏んで、各タイプの軸ポイントをしっかり乗せるように骨格で立ってセットアップすれば、自然と力みは抜ける、ということを言っている。
ビフォーアフター
参考までに、筆者の肩の力みが抜ける前と抜けた後の状態を載せておく。
ちょっと分かりづらいが、before は肩に力が入っている分、肩のラインが少し盛り上がっているように見える。
それに対し、after は肩の力みが抜け、肩のラインが一直線に見えるのがわかる。
左肩も同様に、肩が少し落ちており力が抜けていることがわかる。
このビフォーアフター間は、肩の可動域を広げるトレーニングをしたとか、何か特別なことをしたわけではなく、
ただ「骨格を揃えて立つ」、つまり(筆者はAタイプなので)「土踏まず、膝、みぞおちを揃えて立つ」ことをしただけ。
厳密に言うともうちょっと意識している点はあるが、しっかり骨格で立つということをするだけで、目に見えて肩の力が抜ける。
肩の力みに悩んでいる人はぜひ5ポイント理論を学んだうえで試してみてほしい。
ガッツポーズで見る4スタンス理論のタイプ
ガッツポーズには、4スタンス理論のAタイプ/Bタイプの特性が出やすい。
動作において身体全体が伸び上がるような形(体幹が伸展)になるのがAタイプ。
それに対して、身体全体が沈み込むような形(体幹が圧縮)になるのがBタイプ。
上記より、Aタイプのガッツポーズは身体が上昇しながら拳を上に突き上げるような形に、Bタイプのガッツポーズは身体が下降しながら拳を下に降ろすような形になりやすい。
これを踏まえたうえで、ダーツプロのガッツポーズをタイプ別で見ていこう。
Aタイプ
・赤松大輔 プロ(A1)
Aタイプかつクロスタイプの特徴である、斜め上へ運動が表れている。
・江口祐司 プロ(A2)
ザ・A2タイプ。A2タイプはコロンビアになりがち。
・村松治樹 プロ(A2)
ちょっと変化球。
拳を下に振り下ろしているものの、身体全体はしっかり伸び上がる形になっている。
Bタイプ
・鈴木猛大 プロ(B1)
片手の拳を下に突くようにガッツポーズしている。
B1 は片手を真下に振り下ろすガッツポーズが多い気がする(荏隈プロとかもそう)。
・榎股慎吾 プロ(B2)
身体をひねりながら拳を下に押し付けるようにガッツポーズをしており、Bタイプの特徴がよく出ている。
・津村友弥 プロ(B2)
いい動画が見つからなくてちょっと分かりづらいが、B2の特徴であるひねり+下降が表れている。
5ポイント理論における可動ポイントは意識してはいけない
今回は5ポイント理論のお話。
いきなり説明始めるのもアレなので、それぞれのタイプにおける軸/可動ポイントのおさらい。
■ A タイプ
軸ポイント:「足裏」「膝」「みぞおち」と、みぞおちのサブポイントである「肘」
可動ポイント:「股関節」「首の付け根」と、股関節と首の付け根のサブポイントである「手首」「肩」
■ B タイプ
軸ポイント:「足裏」「股関節」「首の付け根」と、股関節と首の付け根のサブポイントである「手首」「肩」
可動ポイント:「膝」「みぞおち」と、みぞおちのサブポイントである「肘」
可動ポイントは意識から抜く
掲題に掲げたように、可動ポイントは意識してはいけない。
軸ポイントを固定する(意識する)と、可動ポイントは勝手に動く。
勝手に動くものなので、意識して動かそうとすると動作がぎこちなくなる。
言い換えると、不随意動作を随意にやってしまっているということ。
例えば椅子に座るという動作において、A タイプの人は
「膝を軸にして座ってください」
と言われて座るのと
「お尻を落としながら座ってください」
と言われるのでは、どっちが座りづらい(ぎこちない)かわかると思う。
前者の場合、A タイプの軸ポイントである膝を意識して動作をするため、自然に可動ポイントである股関節(お尻)が落ちてスムーズに座れる。
後者の場合、可動ポイントである股関節(お尻)を意識してしまうため、膝を意識して座った時よりも何かぎこちない、違和感がある、と感じるはず。
どちらも見た目では同じ動作をしていることに変わりはないが、意識するポイントの違いによって動作の安定性に差が出る。
これはダーツにも応用できる。
ちょっと前に自分でこう呟いたけど、ここまで読んだあなたならやっていることがよくないということに気付くはず。。。(当方 A2)
投げリザ@ラウンドワン川崎大師
— チェケラファイターズ(木) (@ice_scan_d) April 19, 2022
「コッキング」という動作を試してみた。コッキングをするには手首を固定せず柔軟に動かす必要があって、うまくいくとすごく楽に、そして精度良く飛ばせる。コッキングの有無は置いといて、セットアップ時は手首固定しないほうがよさそう。
#ダーツ好きと繋がりたい pic.twitter.com/HzZKAjasiO
コッキングという動作を試したって言ってるけど、A タイプは手首が可動ポイントなので、意識から抜かないといけないところ。
なのに当時のワイは当然そんなことは知らず呑気に手首に意識を置いてコッキングを試してしまっているのである。
コッキングは手首を脱力して肘を固定した結果自然に起こる現象なんやで!!!(A タイプの話)
まとめ
5ポイント理論における可動ポイントを動かそうって意識するんじゃなくて意識から抜いて、軸ポイントを固定するって意識しよう。
A タイプなら肘を、B タイプなら肩と手首を意識して投げると、それぞれのタイプにおける可動ポイントが自然に動いてダーツも安定するようになるはず。